胃・十二指腸潰瘍
胃・十二指腸潰瘍

胃または十二指腸の組織が、粘膜筋板(粘膜の下にある組織)を越えて深く欠損した状態を言います。心窩部痛(胸の下あたりの痛み)、腹部膨満感などの症状のほか、合併症として吐血、下血、消化管穿孔(消化管に穴が開くこと)、狭窄(潰瘍により胃や十二指腸が変形し食物が通らなくなること)などが生じることがあります。
胃十二指腸潰瘍になりやすい人の主な特徴は、以下のようなリスク要因が挙げられます。
胃粘膜に炎症を起こし、潰瘍の主な原因となります。感染していると潰瘍の再発や将来的な胃がんのリスクも高まります。日本の中高年で感染率が特に高いです。
解熱鎮痛剤が胃の粘膜保護物質の生成を抑え、潰瘍を起こしやすくします。リウマチなどで長期服用している場合は特に注意が必要です。
喫煙は胃の血流を悪化させ、飲酒は胃酸分泌を刺激し潰瘍リスクを高めます。
胃酸の分泌を増やし、胃粘膜の防御機能を低下させることで潰瘍の発生や悪化に関与します。不規則な食生活や過食、早食い、刺激物の過剰摂取も胃に負担をかけやすいです。
高齢になると胃粘膜の抵抗力が低下し、潰瘍になりやすくなります。複数の薬剤併用や全身疾患を持つ人はリスクが高いです。
男性に多い傾向があり、30〜70代の中高年での発症が目立ちます。遺伝的要因や血液型(O型の方がややなりやすいとの報告)も影響します。
| 胃潰瘍 | 十二指腸潰瘍 | ||
|---|---|---|---|
| 好発年齢 | 高齢者 | 中年以降 | |
| 男女比 | 1:1 | 2:1 | |
| 症状 | 心窩部痛 | 食後に多い 食事摂取で改善しない |
空腹時、夜間に多い 食事摂取により改善する |
| 胃酸分泌 | ↓ | ↑ | |
| 粘膜萎縮 | (+)〜(++) | (―)〜(+) | |
| その他 | 胸焼け、悪心、嘔吐、腹部膨満感 | 胸焼け、悪心、嘔吐 | |
| 合併症 | 出血 | 吐血が主体 | 下血が主体 |
| 穿孔 | 少ない | 多い | |
| その他 | 穿通(他の臓器と繋がるように穴が開くこと)すると急性膵炎を起こすことがある | 胃の出口の狭窄による通過障害をきたしやすい | |
| 好発部位 | 胃角部小彎に多い | 球部前壁に多い | |
出血や穿孔、狭窄などの合併症がある場合にはまず合併症に対する治療をおこなってから潰瘍に対する治療を行います。
胃・十二指腸潰瘍の治療法は主に薬物療法、食事療法、そして必要時には手術療法に分けられます。
薬物療法では、胃酸分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)やH2ブロッカーを使い、潰瘍の治癒を促進します。また、ピロリ菌感染が原因の場合は抗生物質を使った除菌治療が行われます。胃粘膜を保護・修復する薬も併用されることがあります。薬の治療期間は十二指腸潰瘍でおおよそ6週間、胃潰瘍なら8週間程度です。
食事療法では、胃酸の分泌を増やす脂肪分の多いもの、香辛料、カフェイン、酒類、極端に熱い・冷たいものは避け、消化しやすいものを少量ずつ規則正しく摂ることが推奨されます。
出血や穿孔などの重篤な合併症がある場合は、内視鏡での止血処置、カテーテル治療や手術(腹腔鏡手術が主流)を行います。
なお、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が原因の場合は、これらの薬の中止や変更が必要となります。治療後も再発防止のために生活習慣の改善が重要です。
胃十二指腸潰瘍の主な合併症には以下のものがあります。
潰瘍により胃の血管が傷つき、吐血や下血(タール便)を起こします。出血量によっては貧血やショックになることもあります。
潰瘍が胃や十二指腸の壁に穴をあけてしまい、消化管内容物が腹腔内に漏れ出して腹膜炎を起こします。急な激しい腹痛と発熱が特徴で、緊急手術が必要になることがあります。
潰瘍の炎症や瘢痕形成によって胃の出口(幽門)が狭くなり、食物の通過障害が生じて嘔吐や腹部膨満をきたします。
急性膵炎や腹膜炎といった炎症性の合併症も起こりえます。長期化や反復により潰瘍が治りにくくなり、難治性潰瘍や胃の変形による慢性狭窄症例になることがあります。
これらは生命に関わることもあるため、定期的な検診や内視鏡検査による早期発見・治療が重要です。特に穿孔や大量出血が起こると緊急入院が必要になります。
基本的に十二指腸潰瘍はがんにはなりませんが、胃潰瘍の中には胃がんによるものもあるため注意が必要です。
食事は暴飲暴食を避け、腹7〜8分目を目安にし、胃への負担を減らします。刺激の強い食品(香辛料、辛いもの、コーヒー、アルコール、カフェインなど)は控えましょう。規則正しい食事のリズムを保ち、空腹や暴食を避けることも重要です。ストレス管理や適度な休息も胃への負担を減らすために役立ちます。ピロリ菌感染が原因の場合は除菌治療が必要となることもありますので、医療機関で検査・治療を受けることが推奨されます。
胃・十二指腸潰瘍は、軽度であれば自然に治ることもありますが、多くの場合は適切な治療が必要です。胃潰瘍は2ヶ月程度、十二指腸潰瘍は約6週間ほどの治療期間で症状が改善し、治癒と判断されることが多いです。痛みが続いたり出血がある場合は自然治癒しにくく、医療機関での治療が必須です。
一般的に「潰瘍」と呼ぶ場合、良性の潰瘍を指しますが、一部に胃がんや悪性リンパ腫などの悪性の潰瘍も存在し、外見上の区別が難しい場合もあります。このような場合、潰瘍組織の一部を採取(生検)し、良性・悪性の判別を行います。
再発リスクがあるため、薬の服用や生活習慣改善が重要です。
胃潰瘍が何度も繰り返されると、直接的に胃潰瘍ががんに進行するわけではありませんが、胃潰瘍の背景にあるピロリ菌感染が長期間続くと、胃の粘膜が慢性的に傷つき萎縮性胃炎となり、そこから胃がんのリスクが高まることがあります。特にピロリ菌感染者は胃がんリスクが約5倍に高く、治療や除菌が重要です。
TOP