ヘリコバクター・ピロリ感染症
ヘリコバクター・ピロリ感染症

ピロリ菌は人の胃に感染するグラム陰性桿菌という細菌でピロリ菌の感染は胃がんの最大のリスクとなります。人に感染する他の多くの菌との違いは感染後数十年の長期にわたって持続感染することがあるということです。除菌もしくは胃の粘膜が菌によって萎縮し菌が住めなくなり自然消滅しない限り感染は継続します。
胃がんの罹患率は日本では近年大きく低下していますが、それは若年層のピロリ菌への感染率の大幅な減少によるものです。日本におけるピロリ菌感染率は35〜40%と推測されています。ピロリ菌感染は除菌を行わないと生涯にわたって胃粘膜へ感染し胃粘膜の慢性的な炎症を起こします。それにより胃・十二指腸潰瘍、胃がん、胃MALTリンパ腫、胃過形成性ポリープなどの様々な上部消化管疾患を引き起こします。現在のピロリ菌のガイドライン(H.pylori感染の診断と治療のガイドライン)では原則としてピロリ感染者全てが除菌治療の対象とされています。
ピロリ菌の感染経路は未だ未解明ですが、家族内感染が主な感染経路であるということは確実であると言われています。
通常、胃酸(HCl)が分泌されている胃のなかで細菌は存在することができませんが、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を分泌することで胃酸を中和し、胃内でも生存し胃粘膜へ定着できます。
胃粘膜に定着したピロリ菌は、病原因子であるVacA蛋白やCagA蛋白を産生し、直接的な胃粘膜障害や持続的な炎症反応を引き起こすとされています。
ピロリ菌感染が原因となる主な疾患は以下の通りです。
ほぼ100%の感染者に発症し、胃の粘膜に炎症が慢性的に起こります。胃もたれ、吐き気、胸焼け、胃痛などの症状が現れることがありますが、無症状の場合もあります。
胃の粘膜が萎縮する慢性胃炎の一形態で、ピロリ菌感染が主な原因です。
ピロリ菌による胃粘膜の防御力低下により酸の影響で粘膜が傷つき、潰瘍が形成されます。
多くの場合、ピロリ菌感染に伴う慢性萎縮性胃炎が背景にあり、除菌でリスクを減らすことができます。
胃のリンパ球にできるまれながんで、ピロリ菌感染が主要な原因とされています。
ピロリ菌感染はこの免疫系の疾患の原因の一つとして疑われており、感染が認められれば除菌治療が行われます。
ピロリの検査法には、内視鏡を用いる侵襲的(体内に器具を入れる、針を刺す、組織を切り取る、薬剤を直接体内に投与するなど)な方法と、内視鏡を用いない非侵襲的な方法があります。
| 方法 | 利点 | 欠点 | |
|---|---|---|---|
| 迅速ウレアーゼ検査 | 内視鏡で採取した組織を尿素を含む培地に入れる | 迅速(30分〜2時間程度)かつ、簡便 | 治療後の検出感度にばらつきがある |
| 鏡検法 | 生検標本を顕微鏡下で観察し、ピロリ菌を確認する | 検体を保存できる | 検査医により感度にばらつきがある |
| 培養法 | ピロリ菌を微好気性条件下で培養する | 菌の保存が可能 特異度が高い |
判定までに時間がかかる |
| 拡散増殖法 | 内視鏡で採取される胃内容液中のピロリ菌のDNAおよびクラリスロマイシン感受性に関与する遺伝子領域の変異を検出する | 生検の必要がない 1時間以内に感染の有無と感受性を検査可能 |
新しい検査で感度や特異度のデータがない |
| 方法 | 利点 | 欠点 | |
|---|---|---|---|
| 尿素呼気試験(UBT) | 13C標識尿素を服用するとピロリ菌はこれを13標識CO2とアンモニアに分解する。 呼気中の13C/12Cの比率が増加すればピロリ陽性と判断する。 |
迅速かつ簡便 感度、特異度ともに高い 安全性が高く妊婦や小児に対しても行える |
除菌判定時、稀に偽陽性や偽陰性となる |
| 抗ピロリ抗体測定 | 血清、尿中の抗ピロリ抗体を測定する | 簡便で安価 胃薬の休薬不要 |
過去の感染も認識してしまう 除菌後も一定期間(6〜12ヶ月)陽性が持続する |
| 便中ピロリ抗原測定 | 糞便中のピロリ抗原を検出する | 簡便で安価 感度、特異度が高い 3歳以下の幼児にも行える |
検体の取り扱いが難しい |
ピロリ菌の除菌にはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー、抗菌薬である、アモキシシリン、クラリスロマイシンの3剤併用療法を7日間続けます。
近年ではピロリ菌のクラリスロマイシン耐性菌が増加しているため、一次除菌で除菌しきれないことがあり、その場合は二次除菌を行う場合があります。
除菌療法による主な副作用は、軟便や下痢、味覚異常(食べ物の味がおかしく感じたり、苦味や金属のような味を感じる)、口内炎、発疹やかゆみなどのアレルギー反応、頭痛やめまいといった中枢神経系の症状が報告されています。これらの副作用は多くの場合、一時的で軽度ですが、症状が強い場合や呼吸困難などの重篤なアレルギー症状が現れた場合は、すぐに医師に相談する必要があります。除菌治療後に胃もたれや胸やけ(逆流性食道炎様症状)が出ることもあり、胃粘膜の回復過程で見られますが、通常は軽度で薬で改善されます。
| 迅速ウレアーゼ試験 | 3割負担1650円 | 1割負担550円 |
|---|---|---|
| 鏡検法 | 3割負担3000円 | 1割負担1000円 |
| 培養法 | 3割負担1500円 | 1割負担500円 |
| 尿素呼気試験 | 3割負担1600円 | 1割負担530円 |
|---|---|---|
| 抗体検査(血液・尿検査) | 3割負担700円 | 1割負担230円 |
| 便中抗原検査 | 3割負担1000円 | 1割負担330円 |
| 1次除菌 | 胃薬1種類・抗生物質2種類/1日2回・7日間 | 3割負担:2000円 | 1割負担:660円 |
|---|---|---|---|
| 2次除菌 | 胃薬1種類・抗生物質2種類(1種類を変更)/1日2回・7日間 | 3割負担:1300円 | 1割負担:430円 |
| 3次除菌(自費診療) | 8000円 | ||
| 4次除菌(自費診療) | 10000円 | ||
ピロリ菌のみの検査では保険適用となりません。保険適用の除菌治療には、胃内視鏡検査が必要です。
除菌後も胃粘膜の萎縮の改善にはかなりの時間を要します。また腸上皮化生(胃の上皮組織が変質し、小腸や大腸の粘膜に似た組織に置き換わる現象で胃がんの発がんリスクとなります)は元に戻らないため、胃がんリスクはゼロにはなりません。したがって定期的な胃カメラ検査(内視鏡検査)が重要です。特に除菌後5年間は年1回の検査が推奨され、この期間に見逃されたがんが大きくなる可能性があるため注意深い観察が必要です。
除菌判定検査は、除菌治療終了後少なくとも4週間以上経過してから行い、偽陰性を防ぐために約8週間後が目安です。この検査で除菌が成功したか確認します。除菌後も生活習慣の見直し(禁煙、バランスの良い食事など)が大切で、継続的な健康管理が必要です。除菌後10年以上経過しても胃がんの発生リスクがあるため、外来でご相談しながら長期のフォローアップを継続しましょう。
ピロリ菌は除菌すれば再感染のリスクは非常に低いですが、完全にゼロではありません。除菌後の再感染率は約1~2%とされ、現代日本の衛生環境では特に成人が新たに感染することはめったにありません。しかし、稀に再感染や再燃が起こる可能性があるため、定期的な検診が重要です。
家族内にピロリ菌感染者がいる場合、症状がなくてもピロリ菌検査を受けることをお勧めします。ピロリ菌の感染経路はガイドライン上は明確になっていませんが、幼少期に家庭内の食べ物の共有などで家庭内感染することが多いとされ、感染しても自覚症状がほとんどないため早期に検査・発見することが重要です。家族に感染者がいると同居者や親族も感染している可能性が高く、胃がんリスクの軽減のために検査を受けて陽性の場合には除菌治療を検討するメリットがあります。特に子どもや若い世代、また胃がんの家族歴がある方は検査すべきと思います。
ピロリ菌感染がなければ胃がんにならないわけではありませんが、ピロリ菌感染者に比べると胃がんのリスクは非常に低いです。ピロリ菌感染者は胃がんのリスクが約5倍に上がり、日本人の胃がんの多くはピロリ菌感染に関連しているとされます。しかし、ピロリ菌に感染していなくても1~2%の胃がんは発症し、その原因には生活習慣、自己免疫性胃炎、遺伝子異常などが関係しています。したがって、ピロリ菌がいないからといって胃がんにならないわけではなく、定期的な胃カメラ検査による早期発見が重要です。
ピロリ菌の除菌治療は、通常ペニシリン系の抗生剤を使用しますが、ペニシリンアレルギーがある場合でもペニシリンを使わない抗生剤の組み合わせで除菌治療が可能です。
ピロリ菌の検査は内視鏡を使わずに当日検査が可能な尿素呼気試験法があります。この検査は診断薬を服用して呼気を測定する方法で、検査時間は約30分、検査後すぐに結果がわかります。ただし、保険診療でピロリ菌の除菌治療を受けるには、原則として胃カメラ検査が必須で、胃カメラ検査の結果が半年以内にある場合は保険適用で尿素呼気検査を行えます。胃カメラ検査を受けたことがない場合は、自費診療での検査となります。当院には尿素呼気試験機器がありますので当日検査可能ですが、検査前の薬の服用制限や絶食も必要となりますので、来院時にご相談ください。
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