逆流性食道炎
逆流性食道炎

胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease: GERD)により引き起こされる食道粘膜障害と煩わしい症状(胃酸や胃の内容物が食道へ逆流して食道に炎症を引き起こす)のいずれか又は両者を引き起こす疾患で、食道粘膜障害を有する「逆流性食道炎」と症状のみを認める「非びらん性逆流症(non-erosive reflux disease: NERD)」に分類されます。
逆流性食道炎は最近増加傾向にあり、成人の5人に1人が発症していると言われています。特に最近は、しつこい咳や喉の違和感を自覚される方もおり、最初は耳鼻科や呼吸器科を受診され、その後、消化器病院へ紹介されるケースもあります。
思い当たる症状がある方、または他科で原因が特定できない方は、消化器内科を受診し、胃カメラ検査による診断をお勧めします。
主な原因は、胃と食道のつなぎ目にある下部食道括約筋(LES: Lower Esophageal Sphincter)の機能低下や、一過性の弛緩で胃内容物が逆流してしまうことです。また、胃酸分泌過多(ピロリ菌除菌後)や食道裂孔ヘルニアの存在、肥満、妊娠、加齢、高脂肪食、過食、食後すぐに横になる生活習慣、骨粗鬆症による円背、前屈位なども悪化因子となります。胃酸や胆汁を含む胃内容物の逆流は食道に炎症を引き起こし、さらには食道狭窄や食道腺がんなどの合併症を起こすことがあります。
胸焼けや呑酸症状(胃酸が口や喉まで逆流し、酸っぱい感じを覚える現象)の典型症状に加え、飲み込む際の違和感、のどの違和感・痛み・声のかすれ、慢性的に続く空咳・咳き込み・喘息症状、胸からみぞおちにかけての痛み、睡眠障害や夜間頻繁な目覚めなど、多岐にわたる症状が見られます。そのため、耳鼻咽喉科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科のどこを受診すべきか迷う方も少なくありません。
GERDの病態は生活習慣による影響も少なくありません。
リスク因子である肥満に関しては減量により食道内酸逆流と逆流症状が減少することが証明されています。喫煙に関しては食道と胃の接合部の圧を減少する働きがあり逆流を誘発するとされています。夕食の時間に関しては早い夕食(就寝前6時間)と遅い夕食(就寝2時間前)をとった方でくらべた研究があり、遅い夕食を食べている方が就寝中の胃酸逆流が多いと報告されています。また就寝中の頭位挙上(10インチ=25cmの挙上)も就寝中の胃酸逆流を抑制すると言われています。
逆流性食道炎を起こしている方は胃カメラによりその程度を診断することが可能です。ロサンゼルス分類という炎症の度合いを判断します。ロサンゼルス分類は胃酸逆流の程度、治療の反応性、酸分泌抑制薬による維持療中の再発リスクなどと相関していると言う報告があり、適切な治療、経過観察が検討でき有用です。胃カメラはGERDの程度だけでなく、喉の炎症や、できものなども観察することできますので、現在の症状がGERDの症状か、それとも喉からくるものかも判断できます。同時に胃の中も観察してきますので、胃の状態も合わせて診断することができ、治療もそれに合わせて選択することができます。
症状の緩和と生活の質(QOL)の改善、合併症予防を目的とする内科的治療が主体となります。
喫煙されている方は禁煙をお勧めします。喫煙によって胃酸の分泌が増加し、LES圧を低下させるため、胃酸が逆流しやすくなります。また肥満の方は、腹部の内圧が上昇することにより胃の中の圧が高まり、LESの機能不全や一過性L E 弛緩の増悪を起こし胃酸の逆流を助長しますので減量をお勧めします。
就寝時の上半身挙上は胃の内容物が逆流しにくくなり、胃酸が食道に逆流して起こる不快な症状を軽減できます。この姿勢は、枕だけで頭を高くするのではなく、リクライニングベッドや傾斜マットなどで上半身全体を自然な角度で支えることが推奨されています。
食直後の前屈位も症状増悪へつながりますので控えましょう。
就寝前の食事、アルコールも症状増悪へつながるため、就寝の2〜3時間前までに済ませることが推奨されます。食事は腹八分目に抑え、脂肪分の多い食事や刺激物(辛いもの、チョコレート、カフェインを含む飲料など)は控えましょう。
高脂肪食は脂肪に反応して分泌されるホルモン「コレシストキニン」がLESを緩ませるため、胃酸が食道へ逆流しやすくなります。また、高脂肪食は消化に時間がかかるため、胃の中に内容物が長時間留まり胃酸の分泌も増え、逆流のリスクが高まります。揚げ物やバター、多量の脂質を含むファストフードなどは特に注意が必要です。
過剰な量の食事を摂ることで胃の内圧が上昇し、その圧力によって胃酸や胃内容物が食道に逆流しやすくなります。満腹まで食べると消化に時間がかかり、胃酸の分泌も増えるため、胸焼けや呑酸などの症状が強く出ることがあります。さらに、過食は肥満の原因となり、肥満による腹圧上昇が下部食道括約筋を緩め逆流をさらにつよめる悪循環を招きます。過食と胃食道逆流症は密接に関連し、過食を控えることは症状の改善に重要です。
胃の壁細胞のプロトンポンプを抑えて強力に胃酸分泌を抑制します。代表的なものとしてプロトンポンプ阻害薬(PPI)、カリウムイオン競合型酸ブロッカー(P-CAB)、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)があります。特にP-CABはPPIより速やかな効果発現が特徴です。これらはGERDの第一選択薬とされ、症状改善や逆流性食道炎の粘膜治癒に効果が高いです。症状が軽い軽症の場合にはオンデマンド療法が有効な治療選択肢とされています。オンデマンド療法とは、症状が出た時だけ酸分泌抑制薬を服用し、症状が改善したら中止する方法です。
消化管運動改善薬は、胃食道逆流症(GERD)の治療において補助的に使われることがあります。具体的には、胃や食道の運動を促進し、胃排出遅延を改善させ、胃酸の逆流を抑える作用が期待されます。
漢方薬は補助的に用いられることがあり、症状や体質に応じて選ばれます。代表的には半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、六君子湯(りっくんしとう)が主に使用されます。これらは酸分泌抑制薬と併用されることが多く、特にPPI単独では効果不十分な場合に補助効果が期待されます。
胃や食道の粘膜保護や修復を助ける薬剤で、胃酸の攻撃から胃食道粘膜を守る役割があります。代表的なものとしてテプレノン、スクラルファートがあります。これらの薬は酸分泌抑制薬と併用されることが多く、酸の攻撃を抑制しつつ粘膜の防御力も高めることで、より効果的な治療を目指します。ただし、防御因子増強薬単独での効果は限られるため、基本治療としては酸分泌抑制薬が中心です。
症状が軽度(ロサンゼルス分類で初期の段階)で一過性の場合、生活習慣の改善により自然に治ることもあります。例えば、上記に述べたような脂肪分の多い食事や暴飲暴食、アルコール摂取の制限、就寝時の姿勢改善(上半身挙上など)、禁煙、適度な運動などを実践すると症状が緩和され、食道粘膜も修復されることが期待されます。
一方、慢性的に繰り返す症状や食道粘膜にびらん・潰瘍がある場合は自然治癒が難しく、治療(酸分泌抑制薬や他の薬物療法)が必要です。無治療で放置すると食道狭窄やバレット食道、さらにはバレット食道がんのリスクもあるため、症状が続く場合は医療機関を受診し診断と治療を受けることが重要です。
胃酸の逆流や刺激を抑え、消化に良いものが基本です。消化の良い食品は脂肪分の少ない白身魚や鶏のささみ、豆腐や蒸し野菜、煮込み料理、おかゆやうどんなどの柔らかい主食が胃に優しいです。また、ほうれん草、ブロッコリー、アボカド、バナナ、メロンなどは胃酸を中和し症状軽減に役立ちます。水分を多く含むスープや味噌汁は胃酸濃度を薄め胃壁の負担を減らします。
特定の遺伝子はまだ完全には明らかになっていません。つまり、家族内でGERDにかかる人がいても、必ず子どもに遺伝するわけではなく、遺伝子だけでなく生活習慣や環境も大きく関与しています。具体的には、肥満、食生活、ストレス、喫煙、アルコールなどの生活習慣が発症に影響しやすく、親子で生活習慣が似ている場合、リスクが高まる傾向にあります。
GERDは再発率の高い病気で、一旦症状や炎症が治っても薬の中止や生活習慣の乱れで再発することが多いです。特に、PPIを中止すると約60〜80%の患者で1年以内に症状が再発すると報告されています。重症度が高いGERDの場合はほぼ100%の再発率ともされており、治療の維持が重要です。
TOP