大腸憩室症
大腸憩室症

腸の壁が弱くなり、腸管の中の圧力によって腸の内側にある粘膜が袋状に外へ突き出た「憩室(けいしつ)」ができた状態です。憩室ができてしまう原因は、食物繊維不足による便秘で腸の中の圧力が上昇し、さらに加齢による腸の壁の弾力低下が組み合わさることで、腸の壁の弱い部分が押し出されると考えられています。憩室自体は無症状ですが、炎症(憩室炎)や出血(憩室出血)を引き起こすことがあります。
大腸憩室は消化器にできる憩室の中で最も頻度が高く、年齢とともに増加し、多発して見られることもあります。
日本では右側の大腸に多く見られると言われていますが、最近は欧米での好発部位である左側の大腸(S状結腸や下行結腸)の憩室が増加傾向にあります。
日本では大腸憩室を持っている方は20%程度いると言われています。
憩室自体は無症状ですが、大腸から出血する「憩室出血」や炎症を起こし腹痛を引き起こす「憩室炎」を発症する可能性があります。
憩室出血は腹痛を伴わない急性の血便を認め、男性や高齢者に多いとされています。それ以外のリスクとしては肥満、NSAIDs(ロキソニンなどの痛み止め)内服が要因として挙げられます。憩室から出血した方の70~90%は自然に血がとまるとされていますが、その一方で20~40%の方は再出血するとも言われています。
憩室炎は40~60歳で大腸の右側に炎症を起こすことが多く、高齢者では大腸の左側に多いとされています。リスク因子としては肥満や喫煙による影響があると言われています。憩室炎は重症化すると膿を作ったり大腸に穴が空いてしまうこともある怖い病気です。
大腸憩室症の主な原因は、大腸の腸管壁の弱い部分に対して腸管内圧が上昇することによって袋状に突出するためと言われています。具体的には、慢性的な便秘などによる腸内圧の上昇や、加齢、食物繊維不足の食事、赤身肉の多い食生活、運動不足、肥満、喫煙、NSAIDs(非ステロイド系抗炎症薬)などが関与しています。また、腸の筋層のけいれんも影響すると考えられています。憩室は一度できると元には戻らず、加齢とともに増加します。これらの要因により、大腸の壁の弱い部分(血管が筋層を貫通する場所など)が外側に膨らんで憩室が形成されます。
憩室炎時には血液検査で、白血球数やCRP(炎症マーカー)を検査し、憩室出血時には貧血の有無を確認します。腹部エコー検査は憩室炎の炎症範囲を調べるのに有効で、炎症の広がりや憩室の状態を評価します。CT検査は憩室の位置や炎症の程度、合併症の有無を詳しくみるために使われます。
大腸カメラ検査は憩室出血の出血部位を特定し、内視鏡的止血治療にも用いられますが、憩室炎急性期には腸管内圧を上げて悪化させるリスクがあるため通常は行わず、炎症が落ち着いた後に検査します。なお、大腸カメラ検査はがんや他の炎症性腸疾患の鑑別にも重要です。
症状が出ていない憩室は健康診断などで偶然見つかることが多いですが、血便や腹痛、発熱などの症状がある場合は上記検査を総合的に組み合わせて診断します。
憩室出血の場合は大腸内視鏡検査で出血源を特定し医療用のクリップで出血の元を挟み止血します。多くの場合はクリップにて止血が可能ですが、それでも再出血してしまう場合には手術が必要となることがあります。
憩室炎の場合には一度食事を止めて、抗菌薬にて治療を行います。膿を作っている場合や腸に穴が空いてしまっている場合には手術が必要となる場合があります。
大腸憩室と食事には密接な関係があります。大腸憩室の予防や症状管理には、食物繊維を多く含む食品を積極的に摂ることが重要です。食物繊維は便のかさを増やし、便を柔らかくして排便をスムーズにすることで、大腸内の圧力を下げ憩室形成や炎症リスクを減らします。一方で、飽和脂肪酸や赤身肉、加工食品、甲殻類などは避けるべきです。急性の憩室炎時は消化に優しい白米やうどん、白身魚、豆腐などを摂り、炎症が落ち着いたら食物繊維豊富な根菜、海藻、キノコ、大豆製品を徐々に増やすのが良いとされています。また、コーヒーやチョコレートなど腸を刺激するものは急性期に控えるべきです。
食物繊維の摂取をしっかり行い、成人男性で21g以上、女性で18g以上を目標に野菜、果物、海藻、きのこ、豆類、全粒穀物などをバランスよく食べることが推奨されます。これにより便秘を防ぎ、腸への負担を軽減します。また、水分を十分に摂って便を硬くしないようにし、排便を我慢せず規則正しいトイレ習慣をつくることも大切です。
適度な運動を習慣化することで腸の蠕動運動を促進し、肥満の予防やストレス軽減も含めて腸の健康維持に寄与します。タバコや過度のアルコール、カフェイン、刺激物(辛いものなど)は避けるべきです。NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は憩室出血再発のリスク因子とされるため、必要な場合は医師と相談して使用の減量や中止を検討しましょう。
さらに、治療後は定期的に医療機関でフォローアップを受け、自己管理として排便状況を記録し、便秘や下痢などの異変に早めに対処することが再発予防に役立ちます。ストレス管理や十分な睡眠も重要な要素です。
大腸憩室症は、基本的に憩室そのものは腫瘍などの病気ではないため、症状がなければ放置しても大丈夫です。ただし、憩室は一度できると生涯残り、将来的に憩室炎や憩室出血を起こす可能性があるため注意が必要です。そのため、食生活を見直し腸に負担がかからないよう配慮することが大切です。
大腸憩室そのものががんになる可能性は極めて低いとされています。大腸憩室は腸壁の一部が袋状に飛び出した状態であり、これはがんの原因とはならず、良性の変化と考えられています。また、憩室炎が長期間続く場合は慢性的な炎症が大腸がんリスクをわずかに高める報告もあるため、憩室炎の治療や管理も重要です。
大腸憩室症の根本治療は現在のところ存在しません。憩室自体を完全に消すことはできませんが、症状が無ければ治療も不要となります。生涯付き合っていく病気となります。
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