胃がん
胃がん

胃の内側の粘膜の細胞が異常にがん化し無秩序に増殖することで発生するがんのことです。胃壁は5層構造で、がんは主に最も内側の粘膜から発生し、がん細胞が進行すると粘膜の下層や筋層、さらに外側の漿膜にまで浸潤していきます。胃の粘膜や粘膜下層にとどまっているものは「早期胃がん」、筋層より深く広がったものを「進行胃がん」と呼びます。進行すると周囲の臓器やリンパ節に転移しやすくなり、お腹全体に腫瘍細胞が散布される腹膜播種を起こすこともあります。特に進行が早く、胃壁を硬く厚くさせながら広がるスキルス胃がんは発見が難しく治療も困難で、胃がんの中でも悪性度が高いタイプです。
胃がんは日本で罹患率の高い悪性腫瘍の1つであり、2019年の統計では男性で前立腺がん、大腸がんに次いで3番目に多く、女性では乳がん、大腸がん、肺がんに次いで多くなっています。胃がんは世界的に減少傾向で、日本でも男性、女性ともにやや減少傾向です。ほとんどが無症状で経過しますが、進行すると腹部不快感、心窩部痛、悪心、嘔吐、体重減少、黒色便、易疲労感が出現することがあります。
胃がんの主な原因はピロリ菌感染です。ピロリ菌が胃の粘膜に感染すると慢性的な胃炎を引き起こし、時間とともに胃粘膜の萎縮や遺伝子異常を招き、これが胃がんの発生リスクを高めます。日本人の胃がんの約99%にピロリ菌感染が関係しているという報告もあります。ただし、感染者全員が胃がんになるわけではありません。
その他の原因としては、喫煙、塩分の過剰摂取、多量の飲酒、不規則な食生活(焦げた肉などの摂取や早食いなど)が胃粘膜にダメージを与え、リスクを上げることが指摘されています。喫煙は胃の粘膜に有害物質を直接届けて炎症を助長します。
胃がんの症状は初期にはほとんど自覚症状がありませんが、進行すると胃やみぞおちの痛み・不快感・違和感、胸やけ・胃もたれ、吐き気や嘔吐、食事がつかえる感じ(食べ物の通過障害)、吐血や黒い便(腫瘍からの出血による)、貧血や倦怠感(慢性的な出血で貧血が生じる場合)、体重減少や食欲不振が見られます。
これらの症状は胃がん以外の胃炎や胃潰瘍などの良性疾患でもよく見られるため、症状があれば胃カメラ検査などで確認することが重要です。早期発見のためには定期的な検診が推奨されています。
胃がんの主な治療法は以下の3種類です。
がんが早期で限局している場合に、胃を開かず口から入れた胃カメラで病変のみを切除する方法です。内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が代表例です。
胃の一部または全部を切除し、リンパ節転移がある場合は同時にリンパ節も切除します。手術の方法は病巣の場所により幽門側切除、噴門側胃切除、胃全摘術などが選択されます。
手術が難しい進行がん、再発防止、術前や術後の補助療法として行われます。細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬など、患者の病状とがん細胞の特性に応じて組み合わせて使用します。
早期の胃がんはほとんど症状がありません。進行するとみぞおちの痛みや違和感、胸やけ、吐き気、食欲不振、黒い便、貧血、体重減少などが見られます。ただし症状は必ずしも明確ではないため、検診や胃カメラ検査で発見されることが多いです。
野菜や果物をたくさん摂ることが重要です。ビタミンCやカロテノイドを多く含むオレンジ、トマト、ニンジンなどの摂取が推奨されます。これらは抗酸化作用があり胃がんの予防に役立ちます。食物繊維を豊富に含む穀物、野菜、果物をバランスよく摂ることで胃腸の健康維持につながり、胃がんリスクが下がるとされています。加工肉(ベーコン、ソーセージなど)や焼き肉など高温調理された肉類は発がん性物質を含むため摂取を控え、蒸し料理や煮込みなど低温調理を選ぶことが望ましいです。塩分の摂取は控えめにすることも重要で塩分過多は胃壁を傷つけリスクを高めるため成人で1日6g以下が目安です。ちなみに日本人の塩分摂取量は世界的に見て多いとされています。成人の1日の平均塩分摂取量は約10g前後で、これは世界保健機関(WHO)が推奨する1日5g未満の約2倍にあたります。
早期の胃がんは治療により完治する可能性が非常に高いです。早期胃がんの5年生存率は95%以上とされ、特にステージ1の段階で発見されれば、内視鏡治療など体への負担の少ない治療で約90%以上が完治すると報告されています。早期発見・早期治療が非常に重要であり、無症状で見つかることが多いため定期的な検診が推奨されます。
胃がんはバリウム検査で見つかることはありますが、特に早期の胃がんでは限界があります。バリウム検査は胃の形や粘膜の凹凸をレントゲンで映し出す検査で、陥凹型(へこんでいる形)の早期胃がんは見つかることがありますが、色調変化型の早期胃がん(発赤のみ)など凹凸がない病変は見つけにくく、胃カメラでないと診断が難しいため、胃カメラ検査をお勧めします。
遺伝性の胃がんも存在はしますがごく稀で、多くの胃がんは遺伝しません。多くの胃がんはピロリ菌感染が原因であり、ピロリ菌は主に母親からの家族内感染によるため、一見すると遺伝しているように見えます。しかし、遺伝子変異が関わる一部の遺伝性胃がんもあります。従って、家族に胃がん患者がいる場合でも、ピロリ菌の検査と必要に応じた除菌が重要であり、定期的な胃カメラ検診も推奨されます。
一般的にはリスクが低い場合、症状がなくピロリ菌感染もない場合は2年に1回の胃カメラ検査が推奨されます。一方で、ピロリ菌感染歴がある方や萎縮性胃炎・腸上皮化生の所見がある場合は、胃がん発生リスクが高いため、年に1回の検査が勧められます。ピロリ菌を除菌した後も胃の粘膜に異常が残っている場合は定期的に内視鏡検査を続けることが重要です。
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