潰瘍性大腸炎・クローン病
潰瘍性大腸炎・クローン病

主に大腸の粘膜を侵し、びらんや潰瘍を形成する原因不明の炎症が大腸に広がる病気です。病変は主にお尻に近い大腸である直腸から始まり連続して広がっていきます。経過中に良くなったり悪くなったりを繰り返し腸管の炎症や腸管の外の臓器まで合併症を引き起こすこともあります。また、長年炎症に侵されると大腸がんの発症リスクも上がるとされています。若い方に好発し典型的な症状としては粘血便、下痢、腹痛などを引き起こします。日本での有病率は欧米より低いですが、近年増加傾向にあり、2015年の疫学調査によれば推定患者様は約22万人に上ると言われています。
主に若い方に発症する原因不明の肉芽種性炎症性疾患です。肉芽種とは特殊な慢性炎症反応のことです。潰瘍性大腸炎と違い、口から肛門まで幅広く消化管のどの部位にも起こりえますが、回盲部(お腹の右下にある大腸の始まりの部分)に好発し非連続性に病巣を形成します。症状としては右下腹部に見られる腹痛や下痢、発熱、体重減少、肛門病変があります。2015年の疫学調査によると推定患者数は7万人と言われています。
潰瘍性大腸炎、クローン病はともに炎症性腸疾患の分類に入りIBD(Inflammatory Bowel Disease)と呼ばれます。
どちらも消化管に炎症を起こす病気ですが、できる場所や大腸カメラ所見などに違いがあります。
| 潰瘍性大腸炎 | クローン病 | |
|---|---|---|
| 好発年齢 | 若年者・中高年層 | 若年者 |
| 好発部位 | 全大腸、特に直腸 | 全消化管、特に回盲部 |
| 発症・経過 | 再燃と寛解を繰り返す がん化することがある |
再燃と寛解を繰り返す |
| 主症状 | 粘血便、下痢、腹痛、発熱 | 下痢、血便は少ない、腹痛、発熱、体重減少 |
| 合併症 | 中毒性巨大結腸症、大腸がん、原発性硬化性胆管炎、壊疽性膿皮症、結節性紅斑 | 痔瘻、瘻孔、狭窄、穿孔、関節痛・関節炎、栄養吸収障害、壊疽性膿皮症、結節性紅斑 |
| 大腸カメラ所見 | 偽ポリポーシス | 敷石像、縦走潰瘍 |
IBDの検査方法は多岐にわたり、まず症状から疑われる場合、血液検査で炎症反応や貧血、栄養状態を調べます。便検査では便潜血の有無やカルプロテクチン(腸管の炎症の指標となる検査項目)、LRG(IBDの活動期と寛解期を反映する血清バイオマーカー)といった炎症マーカーも使用されます。確定診断には内視鏡検査が必須で、大腸や小腸の粘膜を直接観察し、必要に応じて粘膜組織の生検(病理検査)も行います。
軽症〜中等症のIBDに使用されます。炎症を抑えたり組織障害を阻害します。
炎症の原因となっているTNF-αの作用を抑制します。
抗炎症および免疫抑制作用を発揮します。長期投与には向きません。
クローン病などで腸に負担をかけたくない急性期や成長期には、成分栄養剤の経管栄養や在宅中心静脈栄養を行う場合があります。
薬物療法で効果が乏しい重症例には手術が検討されます。潰瘍性大腸炎の重症例では大腸全摘術が行われることがあります。
IBDになりやすい食事には、特定の食材や摂取パターンが関係しており、以下のようなポイントが挙げられます。
BDとして潰瘍性大腸炎とクローン病は日本で指定難病に指定されており、難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)に基づいて医療費助成の対象となっています。詳しくはお問い合わせください。
IBDは、現在の医療では完治が難しいとされています。この疾患は長期にわたって慢性的に続くもので、根本的な治癒法はまだ見つかっていません。
ただし、適切な治療により症状のコントロールや寛解状態の維持は可能であり、多くの患者様が症状を抑えながら日常生活を送っています。寛解状態とは、炎症が抑えられ症状が改善した状態を指しますが、「治癒」とは異なり、再燃のリスクは常に伴うことが多いです。
IBDの薬は、基本的に症状が安定して寛解期に入っても、再燃予防のために長期間、場合によっては生涯にわたって服用し続ける場合もあります。特に5-ASA製剤は安全性が高く、長期間使うことで大腸がんなどの合併症も予防できるため、継続が推奨されます。ステロイドは副作用を避けるため、短期間で減量し中止するのが基本ですが、免疫調節薬など他の薬は長期服用が必要です。薬の自己判断での中断は再燃のリスクを高めるため、必ず主治医と相談しながら治療を続けることが重要です。
IBDは遺伝する可能性がありますが、特定の遺伝子が決定的にIBDを引き起こすわけではありません。IBDは消化管に慢性的な炎症を引き起こす疾患ですが、発症には遺伝的要因と環境的要因が複雑に絡み合っています。家族内でIBDが発症すること(家族集積性)があり、一卵性双生児では発症率が高いことから遺伝的な影響は認められていますが、遺伝子異常は発症しやすい体質を受け継ぐ程度で、必ず発症するわけではありません。また、日本では欧米に比べて遺伝子異常の頻度が低いため、家族内発症のリスクはあまり高くありません。総じて、IBDは完全な遺伝疾患ではなく、遺伝の影響はあっても発症は環境因子なども大きく関わることが分かっています。
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