胆嚢炎
胆嚢炎

胆嚢は肝臓の下にある臓器で肝臓で産生される胆汁を貯留・濃縮して放出する器官です。胆嚢炎はその胆嚢に炎症を起こす疾患で原因はほとんどが胆石(85〜95%)です。
胆石が胆嚢頸部や胆嚢管に嵌頓し胆嚢内に炎症が起こる現象が胆嚢炎です。
胆嚢炎の約90〜95%は胆石が原因で起こります。胆石によって胆嚢の出口(胆嚢管)が塞がると、胆汁の流れが妨げられ、胆汁内に細菌感染を起こし炎症が発生します。胆石がない場合でも、胆嚢のねじれや手術の影響(主に胃の摘出術後)、糖尿病、高齢者の血流障害などで胆嚢炎が起きることがあります。
胆石ができやすい方はいわゆる4F(forty(40歳代)、female(女性)、fatty(肥満)、fair(白人))の方とされています。
胆石形成は胆汁の成分バランスの乱れと胆嚢の働きの低下によって起こります。特に胆汁中のコレステロールの過剰が結晶化し石になることが多いです。高脂肪食や肥満、糖質過剰摂取も胆石形成を促進します。また、胆嚢の収縮機能が低下すると胆汁が濃縮して石ができやすくなります。
また胆石と似たような病態ですが、胆泥(たんでい)といって胆石と同じような症状を起こすこともあります。胆泥と胆石は胆嚢の中にできる胆汁の状態の違いによるもので、胆泥は胆汁成分が変質し泥状(ドロドロ状態)になったもので比較的柔らかい物質です。一方、胆石は胆泥がさらに変性して結晶化し、石のように固形化したものを指します。胆泥は胆石の前段階と考えられ、多くは無症状ですが、胆石になると閉塞や炎症のリスクが高まることがあります。胆泥が胆石に進行すると、胆嚢や胆管の閉塞や炎症、黄疸などの症状が現れやすくなります。胆泥と胆石は同じ胆汁の異常ですが、胆泥は泥状、胆石は固形の結晶という違いがあります。
胆嚢炎の主な症状は、右肋骨の下あたりやみぞおちの激しい腹痛、吐き気や嘔吐、発熱、腹の圧迫で痛みが増す反跳痛や深呼吸時の痛み(Murphy’s sign)、腹部の筋肉が硬くなる(筋性防御)、痛みが右肩甲骨下部や背中に広がることもあります。症状が重い場合、黄疸や全身の倦怠感、悪寒を伴うこともあります。
急性胆嚢炎は痛みが突然始まり数時間以上続くことが多く、慢性胆嚢炎では痛みが食後に出ることがあり、無症状のこともあります。症状が進むと膿がたまったり胆嚢が壊死し、生命に関わることもあるため早期の診察が必要です。
一度胆嚢炎の症状を起こした方は、再発時にはおそらく同じ痛みでご自身で診断できるほど特徴的な痛みとなります。
胆嚢炎の主な診断法には以下の検査があります。
ただし、血液検査単独では胆嚢炎特有の診断は困難で、他の炎症疾患との区別はできません。
典型的な症状は右上腹部の痛み、発熱、吐き気などが認められます。エコー検査の圧痛所見と合わせて診断の精度が上がります。
胆嚢炎の治療は重症度によって治療が変わってきます。
まず全身の各臓器の機能が低下してしまっているような危機的状況では手術が必要となったり、感染した胆汁を胆嚢から抜く手術(胆嚢ドレナージ)が必要となります。
重症ではないですが、炎症の値が高かったり、症状が持続する場合には中等症となりこちらも速やかに手術や胆嚢ドレナージが必要となります。
重症や中等症以外の状態を軽症といい、早めの手術もしくは抗生剤にて一旦炎症をおさめたのち、手術の方針となることがあります。
胆嚢炎の病期によって食事管理が異なります。急性期には消化器を休ませるために絶食や点滴が行われ、炎症が落ち着いてから少しずつ食事を再開します。胆嚢は肝臓で作られた胆汁を濃縮・貯蔵し、脂質を摂取すると胆嚢が収縮して胆汁を十二指腸に分泌しますが、胆嚢炎があると、この収縮が激しい痛みや症状悪化の原因になります。そのため胆嚢炎の食事では脂質摂取量を全カロリーの20~25%程度に制限し、脂質を抑えた食品を選ぶことが基本です。
おすすめの食品は、脂肪分の少ない鶏むね肉、白身魚、豆腐を使い、調理は蒸す・茹でる・煮るなど油を使わない方法が好ましいです。主食は白米や軟飯、うどんなど消化に良いものを中心にし、食物繊維は急性期には控えめにし、回復期から徐々に取り入れます。避けるべき食品は脂質が多い揚げ物や脂身の多い肉、バターや生クリーム、乳製品の高脂肪品です。胆嚢炎の急性増悪は脂質摂取過多が関与するため、脂質の過剰摂取は避ける必要があります。
胆嚢炎の再発率は高く、再発防止のためには生活習慣の見直しや適切な治療が重要です。主に胆石が原因となるため、胆石の予防や管理が胆嚢炎再発予防の鍵となります。
胆嚢炎の受診の目安は、右の上腹部(みぞおちや右肋骨の下あたり)に痛みがある場合、特に右上腹部にしこりを感じたり、触れた時に強い痛みを感じるときは受診をお勧めします。また、痛みがあり呼吸が苦しくなった場合や痛みが1日以上続く場合、高熱を伴う場合、吐き気や嘔吐がある場合では炎症が進行している可能性がありますので受診をお勧めします。急性胆嚢炎では、マーフィー徴候(胆嚢を圧迫しながら深呼吸すると痛みで息ができない)が見られることもありますのでこの所見も目安となります。これらの症状が見られたら、早急に消化器内科または内科を受診してください。夜間や休日であれば救急外来を受診することが推奨されます。胆嚢炎は自然に良くなることはなく、放置すると重症化して胆嚢が壊死し命に関わることもあるため、早めの診断と治療が必要です。
受診時には腹部超音波検査、CT検査、MRI検査、血液検査で炎症の有無を調べます。治療期間は概ね2週間程度で、状態によってはすぐに手術になる場合もあります。
胆石があり症状が出ている場合や胆嚢に炎症が生じている場合は、胆嚢を摘出する手術(胆嚢摘出術)が推奨されます。胆嚢摘出術は胆石ができる場所を根本的になくす治療であり、痛みの発作や胆嚢炎の再発予防につながります。薬による胆石溶解療法は効果が限定的で再発率も高いため、症状がある場合は手術が一般的です。
無症状の胆石では基本的に手術適応ではありませんが、胆嚢内に結石があっても発作を繰り返す場合や胆嚢炎を起こした場合は早期に胆嚢摘出術を行うことが望ましいです。胆嚢摘出後、胆汁は肝臓で作られ続けるため生活に大きな支障はなく、術後の痛みも少なく回復も早い腹腔鏡手術(小さな傷で行う)がほとんどです。胆嚢を摘出しても消化への影響は軽度の場合が多く、体が適応します。経験上ですが、胆石は良性疾患であり、悪性化することはないため、症状がない場合に絶対に手術をしない状況とは言えませんが、年内に数回胆石による疼痛が出現する方には手術をお勧めしています。
胆石を薬でなくすことは場合によります。15mm未満の純コレステロール胆石の場合、「ウルソデオキシコール酸」という飲み薬を半年間程度服用することで約4割の方に胆石が消失することがあります。ただし、薬で溶ける胆石の種類は限られており、特に大きな石、石の数が多い場合や、黒色石やカルシウムを含む結石には効果がありません。また、薬による胆石溶解療法は近年あまり一般的ではなく、効果が限定的で時間もかかります。
症状がある場合や薬による治療の効果が期待できない場合は、腹腔鏡下胆嚢摘出手術が標準的な治療で、胆嚢ごと切除することで根治を目指します。手術以外には衝撃波による胆石破砕療法もありますが、効果は個人差があり限られています。
家族に胆石がある場合、その他の家族も胆石ができやすいリスクがあります。胆石の形成には遺伝的な要因が関与していると考えられており、家族歴があると同様のリスクを抱えている可能性が高いです。また、生活習慣や体質、加齢、性別、肥満なども胆石のリスクに影響します。特に女性や中年以降の人に胆石ができやすい傾向があり、糖尿病や脂質異常症などの代謝疾患もリスク要因とされています。
胆石は主に胆汁中の成分バランスの乱れで形成され、コレステロールやビリルビンの過剰、胆嚢の機能低下や胆汁の滞留が原因となります。食事の欧米化や高脂肪食、不規則な食生活、急激なダイエットなども胆石ができやすくなる要因です。
胆石を取る手術における入院期間は通常3泊4日から4泊5日程度が標準的です。手術当日または前日に入院し、手術翌日から歩行練習や食事が始まり、体調に問題なければ4,5日目までに退院になります。
ただし、胆嚢炎などの合併症がある場合や重症の場合は、入院期間が1〜2週間になることもあります。腹腔鏡下胆嚢摘出術の場合、多くの病院で4〜6日間の入院期間を目安としているところもあります。手術の内容や個々の体調、合併症の有無によって多少異なりますが、軽症の胆石症手術では短期間で退院可能です。当院では手術は行っていないため、手術のできる病院へご紹介いたします。
内視鏡検査(特にERCP:内視鏡的逆行性胆道造影法)では、胆石のうち総胆管結石(胆嚢から続く総胆管という管に石が落ちた場合の総称)を取ることが可能です。具体的には、内視鏡を口から十二指腸乳頭まで挿入し、胆管の出口の十二指腸乳頭を電気メスで切開またはバルーンで拡張し、バスケットカテーテルやバルーンカテーテルで結石を掴んで引き出します。結石が大きい場合は破砕して摘出する処置も行います。
ただし、胆嚢内の結石そのもの(胆嚢結石)は一般的に内視鏡では直接取れず、胆嚢摘出術が標準的な治療です。内視鏡治療の対象は多くの場合、胆嚢から落ちて胆管に詰まった総胆管結石のみの除去になります。
胆嚢摘出術を行えば、胆嚢がなくなるため胆嚢内に胆石はできません。胆石ができる場所自体が消失するので、胆石の再発は基本的にありません。しかし、まれに残った胆嚢管や総胆管内に結石ができることはありますが、それは胆嚢摘出術後も起こりうる稀なケースです。
胆嚢を摘出しても基本的に生活に大きな支障はありません。胆嚢は胆汁を濃縮・貯蔵する役割を持ちますが、摘出後は肝臓から直接胆管を通じて胆汁が十二指腸に流れるため、消化機能はほぼ正常に維持されます。術後に脂質の多い食事で下痢を起こすことがあるものの、時間とともに体が慣れて通常の食事に戻れ、多くの方が術前と同様の生活を送っています。
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