虫垂炎
虫垂炎

まず虫垂(ちゅうすい)は、大腸の盲腸(大腸の最初の部分にある右下腹部に位置する腸)の後ろ内側に突起状に垂れ下がった細長い臓器です。消化・吸収の役割はほとんどなく、主にリンパ組織を含むため免疫に関係する臓器と考えられています。虫垂は直径約5mm、長さ約5cmほどの大腸の一部にあたります。その虫垂に糞石(便が石灰化したもの)や食物残渣(食べ物のかす)、腫瘍などが詰まって虫垂の中の圧が上昇し血流の巡りが悪くなり二次的に感染が加わることで炎症を起こし発症します。
10〜20歳代に後発します。男性と女性では性差はありません。
虫垂炎の主な原因は虫垂の閉塞で、これは糞石(硬い便の塊)、虫垂憩室(虫垂にできる大腸憩室)、まれに腫瘍などが詰まることで生じます。この閉塞により虫垂内部の血流が悪くなり、大腸菌や腸内細菌による細菌感染が起こり、虫垂に化膿性の炎症が生じると考えられています。また、食べ過ぎ・飲み過ぎ、寝不足、過労、運動不足、便秘、ストレスなどの生活習慣の乱れも虫垂炎の誘因として関与しています。
虫垂炎の主な症状は、最初にみぞおち(胃の上あたり、胸の下)やへその周りの腹部中央付近に痛みが生じ、次第に痛みが右下腹部に移動し強くなるという特徴があります。初期症状としては、腹痛、吐き気、食欲不振、軽度の発熱があり、放置すると痛みが激しくなり発熱が悪化して、腹膜炎を引き起こす場合もあります。痛みは押さえて離したときに強くなったり、歩いた時にお腹に痛みが響くといった反跳痛がみられることもあります。これらの症状は数時間から1日程度の間に移行しすることが特徴です。小児では元気がなくなったり機嫌が悪くなることもありますので注意が必要です。
虫垂炎の診断は主に症状の評価と身体診察が基本となり、必要に応じて血液検査や画像検査を組み合わせて行います。
問診で腹痛の部位や症状の経過を確認します。痛みはしばしば最初はみぞおちやおへそ周辺に出て、次第に右下腹部に移動します。
触診では右下腹部を押して痛みの有無、筋性防御や反跳痛があるかなどを確認し、これは虫垂炎の重要な診察ポイントです。
血液検査で白血球数やCRP(炎症マーカー)の上昇を確認し、炎症の有無を評価します。
画像検査は超音波検査が初期によく使われ、虫垂の腫れや肥厚、糞石などの所見を確認します。CT検査はより正確に虫垂の炎症範囲や合併症の有無を把握するために用いられます。
これらの所見を総合して診断し、重症例ではCT検査によって穿孔(虫垂に穴が空いてないかどうか)の有無や合併症を詳細に評価します。典型的な症状と所見が揃えば臨床的に診断でき、診断があいまいな場合や合併症の疑いがある場合に画像検査が特に重要です。
虫垂炎の治療には主に2つの方法があります。1つは抗菌薬など薬物療法を用いて炎症を抑える内科的治療(昔からいう「ちらす」という治療法です)、もう1つは虫垂切除術という外科的手術で虫垂を取り除く方法です。症状が軽度で早期発見の場合は抗菌薬治療で改善することもありますが、穿孔リスクや膿瘍形成リスクが高い場合は虫垂切除術が標準的な治療となります。手術は通常、腹腔鏡下手術が現在は主流で創が小さく回復が早い特徴があります。抗菌薬は嫌気性菌(酸素のない環境で生活・増殖する細菌)とグラム陰性腸内細菌に対応したものが使われます。術後は感染予防や脱水管理、痛みの管理が重要です。
当院では診察上、虫垂炎が疑われ、お腹の症状が強い場合には手術可能な病院へご紹介いたします。上記症状がある場合には遠慮なくご相談ください。
当院では虫垂炎の抗生剤は加療を行えますが、虫垂炎を抗生剤で治療した後の注意点があり、以下がポイントとなります。
抗生剤治療後も右下腹部の痛みや発熱、吐き気などの症状が続く場合は、再度医療機関を早めに受診する必要があります。
術後約1週間は過度な運動を控え、身体に負担をかけないようにします。これにより再発や合併症のリスクを減らせます。
炎症が強い場合は絶食したり、消化の良いものを少量ずつ摂る形で腹部の状態を観察しながら食事を徐々に戻していきます。食べ過ぎると腸の動きが悪くなることもあるため注意が必要です。
抗生剤単独治療は、非穿孔性の軽症虫垂炎の場合で約20~30%の再発率が報告されています。再発した場合は再度抗生剤治療か、状態によって虫垂切除術が検討されます。
以上が抗生剤治療後の主な注意点であり、症状の変化には注意深く対応し、医療機関への早期受診が重要です。
虫垂炎を抗生剤で散らした後の再発率は研究や報告により多少の差はありますが、おおむね1年以内の再発率が約15〜30%、5年以内では30〜40%程度とされています。5年後の累積再発率は39.1%との報告もあります。つまり、抗生剤治療を受けた人の約6割は再発しませんが、一定の割合で再発リスクがある状態です。
再発しやすい時期は初回治療から数ヶ月以内に多い傾向がありますが、正確な予測は難しいです。再発時には再び腹痛などの症状が現れ、場合によっては手術が必要になることもあります。経験上、年内に数回虫垂炎を起こしている場合には普段の生活や仕事にも影響が出ている可能性が高く手術をお勧めしています。
予防策としては、抗生剤で散らした後に症状が落ち着いた段階で1〜3ヶ月のうちに予防的な虫垂切除手術を行うケースもあります。しかし、虫垂炎自体は良性疾患のため、絶対に手術をしなければいけない病気ではないため、希望や症状に応じて判断いたします。
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